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最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)790号 判決

上告人 布施税務署長

代理人青木義人 外六名

被上告人 石井弘

主文

原判決中被上告人の控訴を棄却した部分を除きその余を破棄する。

第一審判決中被上告人の請求を棄却した部分及び被上告人の訴を却下した部分を除きその余を取り消す。

上告人が被上告人に対してした昭和二六年分所得税に関する過少申告加算税課税処分の無効確認を求める被上告人の請求を棄却する。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人水野祐一、及び同坂田暁彦名義の上告理由について。

原判決は、上告人の被上告人に対する昭和二六年分所得税に関する過少申告加算税課税処分を無効と判示しているのであるが、その理由とするところは、加算税の課徴を行政罰と解し、被上告人が確定申告をしなかつたにもかかわらず過少申告加算税を課徴したのは、処罰上の基本的構成要件を欠く処分であり、その瑕疵は重大かつ明白であるというのであり、これに対し、論旨は、当裁判所の判決を援用して加算税の課徴は行政罰ではない旨を主張し、また、無申告加算税を課すべき場合に、過少申告加算税を課しても、重大かつ明白な瑕疵があるとはいえないというのである。

当裁判所昭和三三年四月三〇日の判決(民集一二巻六号九三八頁)が、追徴税は刑罰として課する趣旨ではない旨を判示していることは論旨のとおりである。しかし、右の判決は、憲法三九条の解釈適用において追徴金の課徴を刑罰にあたらない旨を判示しているに止まり、いかなる意味においても処罰たる性質を持たない旨を判示しているものと解することはできない。追徴税(加算税)が、納税義務者の申告義務違背に対する不利益処分である以上、処罰たる性質を全く有しないとはいい切れない。しかしながら、これを本件の場合について見るに、被上告人は確定申告をしなかつたのであるから、法律の規定からいえば、無申告加算税を課徴されてもやむを得ない者である。そして原判決も判示するように、無申告加算税の方が過少申告加算税よりも多額であることは明白であるから、被上告人は、誤つて過少申告加算税を課徴されたことにより不利益を受けたものではないということができる。原判決は、申告のないのにかかわらず過少申告加算税を課徴することは、処分としての構成要件を欠く旨を判示しているのであるが、過少申告といい無申告といい、ともに申告義務違背であることに相違はなく、両者に対する加算税は、その本質においてかわりはないものと解すべきである。原判決は、加算税の処罰としての性質をあまりにも過大視するとともに、両者を全く別個の性質のものとしたものと解され、この点において、原判決は法令の解釈を誤つた違法があるといわなければならない。上告人が本件の場合、過少申告税を課したのは違法ではあるが、処分の瑕疵が重大であるかどうかは、処分の相手方の受ける不利益の程度も考慮に入れて判断すべく、本来、無申告加算税を課すべき場合に、過少申告加算税を課したからといつて、その瑕疵が重大なものということはできない。

以上説明のとおりであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れず、原判決と同趣旨の第一審判決も取り消すべきものである。そして、原判決の確定した事実によれば、他に本件過少申告加算税課税処分を無効とすべき理由はないから、その無効確認を求める被上告人の本訴請求は、これを棄却するのが相当である。

よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致で主文のとおり判決する。

(裁判官 石坂修一 五鬼上堅磐 横田正俊 柏原語六)

上告代理人水野祐一、同坂田暁彦の上告理由書〈省略〉

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